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九十九……あと一つで百。 百は円(まどか)。 百は満ち足りたるモノ。 九十九は欠けたモノ。 満ち足りず飢えたモノ。 飢えは欲望を呼び、それ故に求め続ける。 あと一つ、あと一つ……と。 人もまた欠けた存在。それ故に求める。 欲望を満たす強き力を…… 2012年、夏。 東京の美術専門学校に通う主人公・百日紅一二三 (さるすべり ひふみ) は、町興しのボランティアの手伝いに呼ばれ、友人たちと生まれ故郷の町・葛折町(つづらおりちょう) へと向かう。 この町にはいくつかの言い伝えが残されていた。 古い器物を奉る風習があり、それらの器物は九十九神と呼ばれる神―― 妖(あやかし)であること。 それらは人に恩恵を与え、代わりに心 (記憶)、命 (寿命) を喰らうこと。 そして、九十九神に憑かれた者は、百年に一度の “欠け月” の夜、九十九神と共に常世へと連れ攫われること……。 言い伝えは、民話であり、伝説であり…… 一二三にとって、それは遠い世界の御伽噺にしか過ぎないはずだった。 葛折町に着いた夜、一二三はひとりの少女と出会う。 全身に包帯を巻いた不気味な少女……。 その少女は、一二三に “九十九神・白蛇精(はくじゃせい)” の形代を渡すが、その形代は具現化し、大蛇となって一二三を襲う。 少女は告げる。 「その九十九神はあなたを待っていた……。願いを叶え、依代となったあなたを。 取り憑き殺したいほど、恋いこがれてね…… ふふ」 欠けた赤い月―― “欠け月” を背に不気味に笑う少女。 追い詰められた一二三の前に現れるのは、別の少女の影―― 拳銃の九十九神・八房を握るその娘の名は、伏姫という。 一二三と伏姫、ふたりの出会いから物語は始まる。 人と器物、そして妖(あやかし)の物語は紡がれる。 それは欠け月の夜の夜想曲……。
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