‘希死念慮’――。 「この世界から、僕の存在が消えてなくなればいいのに」 都内に住む男子学生・『宵宮梯子≪よみやはしご≫』は、学校の花壇に横たわり青空を仰ぎながら、そう願った。 耳に突き刺さる蝉の声も、身を焦がす熱い陽射しも。学生たちの喧噪さえ、遠く聞こえた。 青く、蒼く、碧≪あお≫に惹かれる――静かな、時間だった。 それから1年が経ち、以来不登校になっていた梯子は思い立って家出を決行する。 あの日失った、自分の中の何かを取り戻したくて。 辿り着いたのは、都内に佇≪たたず≫む巨大な廃墟群。 誰にも知られず、縛られず、後も先も考えずにただ毎日を過ごそうと思っていた――のだが。 屋上から見る夜空。月に掛けた梯≪はしご≫のように伸びた鉄塔に、一人の少女が座っていた。 『天使』――そう名乗った彼女の背中には、やせ細った翼が生えていた。 半分だけの、翼。 「手伝ってほしいの。私の失くした、羽根探し」 星に願うように、月に愛を誓うように。 彼女は、祈るように天≪そら≫に手を伸ばす。 人を救うはずの天使を、救う手伝いをすることになった梯子。 そのために渡された1枚の羽根は、彼に特別な力を与えた。 浮足立って一歩踏み外さなければ出逢わなかった相手と、不思議な羽根を探すことになるとは思いもしなかった。 なんて、物語≪フィクション≫じみた物語≪エピソード≫。 2人の奇妙な共同生活≪はねさがし≫は、宵の訪れと共に始まった。
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