彼方の人魚姫

“穢れ”。それは人魚が人魚ではなくなり、
人として生きざるを得なくなること。

穢れは秘密を呼び、秘密は過去を想起させる。
人魚姫はそれらを携えて新しい世界へと向かう。

それが本人すら意図しない未来を招くとは知らぬまま──

大切な友人を失くして十年目の夏。
夏休みまであと数日という時、波島伊月の常識は、
人魚との邂逅によって変わることになる。

海で自らを助けた人魚……橘藍魚との出会い。
それがひと夏の物語の幕開けでもあった。

“穢れ”を受けて人間となった元人魚姫であり、
好奇心と行動力の塊のような橘藍魚。

彼女の世話役兼親友として生活を
共にする神社の長女、内海日輪。

誰よりも優しく内気な鬼切畑葵は、
無垢な心で人魚だと知らぬまま藍魚を受け入れる。

短い夏に提示される二つの選択肢。
一歩を踏み出し秘密と感情を打ち明けるか、
それとも大事にしまったままにするか。

これは自らの秘密と過去と向き合うための
ひと夏の優しくも短い時間の物語。